けいあんの御触書

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映画鑑賞料金改定から見える松竹の戦略

 TOHOシネマズの値上げ発表を皮切りに、MOVIX・ピカデリー等の松竹系劇場(松竹マルチプレックスシアターズ)、さらにバルト・ブルク含むT・ジョイ系列劇場が値上げを発表しました。

 上のリンク先にある改定した料金表を一覧しやすくトリミングしたものが以下の画像です。

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 会社名が書いてあるのでわかるとは思いますが、上からTOHOシネマズ/松竹マルチプレックスシアターズティ・ジョイの順です。レイトショーと12月1日の本来の「映画の日」以外の割引料金を一律100円引き上げていると考えればシンプルだと思います。
 大きく違うのは一般鑑賞料金でTOHOシネマズが全国66館全てで1900円になるのに対し、松竹マルチプレックスシアターズでは新宿ピカデリー丸の内ピカデリーティ・ジョイ新宿バルト9のみが1900円に改定されるという点。東京都は最低賃金も段違いですし、都心部のみというのであれば理解は出来るのですが、TOHOみたいに一律値上げってのは少し違和感を覚えますね。
 これをもって一律1800円が崩れた……という人もいますが、今でも一般1800円ではない劇場は僅かながら存在します。家から一番近い所だと岡谷スカラ座が一般1700円ですね(参照 http://userweb.alles.or.jp/scalaza/ticket.html )。とはいえほぼ統一されていた1800円の鑑賞料金が大きく崩れるニュースだった事には間違いありません。

 劇場に足繁く通う人の反応を見ると、TOHOシネマズの発表時は反発が多めだった一方で、松竹マルチプレックスシアターズに対してはほとんど問題視されていませんでしたし、むしろ「そこは変えなくても大丈夫なの?」と心配されるぐらい。T・ジョイに関してはまだ発表されたばかりなので拾い切れていないですが、こちらはTOHOと松竹マルチプレックスシアターズの中間のような反応でした。なぜこのような反応の違いが生まれたかというと他の施策との絡みがあるからでした。
 ここからはTOHOシネマズと松竹マルチプレックスシアターズの会員サービスを列記し、反応の違いの要因について語ってみようと思います。


 TOHOシネマズでは「シネマイレージ®」という会員制度があります。この会員になるのに登録料として500円、さらに1年毎に更新が必要で300円/回の料金がかかります。特典は以下の通り
 ・6回見たら1回無料となる「スタンプラリー」
 ・鑑賞時間が1分=1マイルとなる「シネマイレージ(®マイル)」
 ・カード提示で1400円で鑑賞出来る「シネマイレージデイ」
 ・一般よりも3時間早くチケットの購入可能

 1番目は他の劇場でも見かけるサービスなので説明は省きます。2番目は独自性の高いサービスですが、6000マイル(六本木のみ9000マイル)で交換できた「1ヶ月フリーパスポート」は今年いっぱいでの終了が発表されていますし、「1ヶ月フリーパスポート」「6回見たら1回無料」で確保出来る座席数が上映ごとに上限設定がされ始めたため、使いたくても使えないという状況が生まれるようになりました。特に「1ヶ月フリーパスポート」は当日にならないと発券できないので、都心部の話題作では使えない事がありました(自分も経験あり)。「1ヶ月フリーパスポート」「無料鑑賞の座席数上限」と観客に不利になる改定が昨年10月になされた上に、鑑賞料金が値上げとなったので不満の声が上がったようです。


 松竹マルチプレックスシアターズでは「SMT Members」という会員制度があります。こちらはつい最近「登録無料・会費無料」に変更されましたし、劇場に行かずともWebだけで登録完了出来るようになりました。こちらの特典ですが
 ・6回観たら1回無料
 ・リピーター割引(1200円 or 1300円クーポン配布)
 ・お誕生月に1000円鑑賞クーポン1枚
 ・毎月20日に1100円(改定後1200円)鑑賞出来るMOVIXデイ/SMTデイ(新宿ピカデリー・東劇除く)
 ・コンセッション購入時にカード提示する事で無料鑑賞クーポンが抽選で当たる

 TOHOシネマズに比べるとかなり手厚く感じます。特に強いのが2番目のリピーター割引で、有料鑑賞すると翌日にクーポンが届きます。このクーポンを使えばネット購入で1200円、劇場購入で1300円となるのですが、クーポンを使っての鑑賞でもまたクーポンが配布されます。期限が60日しかありませんが、切らさなければずっと1200円で鑑賞し続けることが可能です。しかも鑑賞料金改定後もこのクーポンのシステムは維持されるようなので「ここは1300円に上げても良いような……」という反応があるぐらいでした。ですが、ここを1200円で据え置きにしたのは戦略的に意味がありそうだと感じましたので、その点については後述。このクーポンあるが故に、足繁く通う人が値上げのニュースに対して反発する事はほぼなかったですね。そりゃそうです、リピータークーポンが続く限り全く影響ないのですから。


 TOHOシネマズは興行収入ランキングで上位を占める率が高い東宝の傘下ですから、施策が弱くても観客が自然に寄ってきます。ですから観客に不利な改定もしやすいですし、実際「シネマイレージ®のサービス変更」「料金改定」を先陣を切って行ってきました。

 一方、松竹マルチプレックスシアターズは松竹傘下。興行収入ランキングでTOP10に入る作品が2016~2018年にはなかった(参照リンク 2016 2017 2018)松竹配給の作品。自社配給の作品が強くないので、新宿ではTOHOシネマズより新宿ピカデリーの方が、東宝配給の作品が長続きしてしまうなんて事もあります。なのでリピータークーポンの維持からもわかるように、囲い込みを強めていくのは良い戦略だと思います。

 ここでリピータークーポン価格維持の良い効果についての話をしますが、今回の値上げと上手く噛み合いそうなのですよね。
 どの劇場でもよく見られる光景ですが、割引サービスのある日はたいてい混雑します。わかりやすい所だと直近の5月1日が凄まじかったですね。お休みの日に1100円となる日が重なったのですから。一方で割引サービスが無い日・時間帯はかなり客数が減ります。これは体感でもよく分かりますし、売上を管理している側はさらによく分かっていることでしょう。
 しかしこれからは割引サービスも1200円となりリピータークーポンでの鑑賞価格と差がなくなります。そうなれば会員は「観たいタイミング」「観られるタイミング」に行ってしまおうという機運が高まるでしょう。劇場としても土日とサービスデイは混むけどそれ以外は落ち込む、という状況を打破出来る可能性があるわけです。上でも書きましたが、少し前に会員登録・維持にかかる費用を無くし、Webだけで登録完了する仕組みにしたのも、囲い込みをしやすくする施策と考えるとつながってきますよね。コンセッションにも抽選クーポンを付ける事で、それらの売上増も図っていますが、客数が増えればより高い効果が得られますし。

 
 TOHOシネマズの値上げを機に、松竹マルチプレックスシアターズはソフト面での劣勢を上手く挽回して行こうという考えが感じ取れました(それがT・ジョイには見られなかったので???なのですが……)。館数が違いすぎるので影響が出るとは言い切れないですけど、TOHOシネマズが慌てるぐらいになると面白くなるのですけどねぇ。